
「ノーコードとローコードって、何が違うの?」
「これがあれば、もうプログラマーはいらなくなるの?」
今、ITの世界で、ソフトウェア開発のあり方を根本から変える可能性を秘めた、大きなムーブメントが起きています。その主役が**「ノーコード(No-Code)」と「ローコード(Low-Code)」**です。
一言でいうと、これらは**「プログラミングの専門知識(コード)を、ほとんど、あるいは全く使わずに、高品質なアプリケーションやWebサイトを、素早く開発するための『考え方』であり『ツール』」**のことです。
この記事では、プログラミング知識ゼロの初心者の方でも、この新しい開発手法の全貌がわかるように**「料理」**に例えながら、わかりやすく徹底的に解説していきます。
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ノーコードとローコードの具体的なイメージと、その違い
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なぜ今、これほどまでに注目されているのか?(メリット)
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知っておくべき限界とデメリット
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エンジニアの仕事はどう変わっていくのか?
ノーコード/ローコードの正体:「料理」に例えると一目瞭然
ソフトウェア開発を、夕食の「カレーライス作り」に例えて考えてみましょう。
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フルスクラッチ開発(従来のプログラミング)
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やり方:スパイスを自分で調合し、野菜を畑から育て、一からカレーライスを作る。
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特徴:味の調整は無限大で、世界で一つだけの究極のカレーを作れる。しかし、調理には専門的な知識と、膨大な時間、そして手間がかかる。
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ITの世界では:プログラマーが、テキストエディタに一行ずつコードを書いて、完全にオリジナルのソフトウェアを開発する手法。
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ノーコード(No-Code)開発
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やり方:**「温めるだけのレトルトカレー」**を使う。
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特徴:誰でも、お湯さえ沸かせば、数分で美味しいカレーが食べられる。プロの料理の知識は一切不要。ただし、味のバリエーションは、メーカーが提供する「甘口」「辛口」の範囲に限られ、オリジナルの味付けをすることは、ほぼできない。
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ITの世界では:あらかじめ用意された部品(パーツ)を、マウスのドラッグ&ドロップでパズルのように組み合わせるだけで、アプリやWebサイトが完成する。一行もコードを書く必要がない。
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ローコード(Low-Code)開発
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やり方:**「カレールーと、カット済みの野菜セット」**を使う。
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特徴:基本的な調理は、箱の裏に書かれた手順通りに進めれば、誰でも簡単にできる。さらに、「隠し味にチョコレートを少しだけ足そう」「オリジナルのスパイスを追加しよう」といった、一部分だけ、自分の好みに合わせたカスタマイズを加えることができる。
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ITの世界では:基本的な機能は、ノーコードのようにGUI(グラフィカルな画面)で素早く開発できる。そして、「ここだけ、独自の処理を入れたい」という、複雑な部分だけを、プログラマーが少しだけコードを書いてカスタマイズする。
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【違いのまとめ】
ノーコード (No-Code) | ローコード (Low-Code) | |
コード | 一切書かない | 最小限だけ書く |
主な利用者 | 非エンジニア(営業、マーケター、企画職など) | エンジニア、またはエンジニアと協業するビジネス部門 |
自由度・拡張性 | 低い(ツールが提供する機能の範囲内) | 高い(コードで自由に拡張できる) |
開発スピード | 最速 | 速い |
例えるなら | レトルトカレー | カレールー+カット野菜セット |
なぜ今、ノーコード/ローコードが注目されているのか?
この新しい開発手法が、世界中の企業から熱い視線を注がれているのには、いくつかの切実な理由があります。
1. 圧倒的な開発スピード
最大のメリットです。フルスクラッチ開発に比べて、開発期間を数分の一、時には数十分の一にまで短縮できます。
市場の変化が激しい現代において、「アイデアを、いかに速く形にするか」は、ビジネスの死活問題です。
2. 開発コストの削減
開発期間が短くなるということは、エンジニアの人件費を大幅に削減できることを意味します。
また、高価な開発ツールや、サーバーの専門知識がなくても、クラウドベースのプラットフォーム上で、安価に開発を始められます。
3. 深刻なIT人材不足の解消
経済産業省の調査では、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。ノーコード/ローコードは、この問題を解決する切り札として期待されています。
プロのエンジニアでなくても、業務を最もよく知る現場の担当者(営業、人事など)が、自分たちの手で、自分たちの業務に必要な「ちょっとしたツール」を自作できるようになるのです。
4. DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
企業全体の業務プロセスを変革するDXにおいて、すべてのシステムをプロのエンジニアが開発するのを待っていては、到底間に合いません。
現場レベルで、ノーコード/ローコードを使って素早く業務改善を進めることが、DX成功の鍵となります。
「最近、ニュースや新聞で『DX(ディーエックス)』って言葉をよく見るけど、一体何のこと?」「IT化とか、デジタル化と何が違うの?」 今、ビジネスの世界で最も重要なキーワードの一つ、それが**「DX(デジタルトラ[…]
代表的なノーコード/ローコードツール
ノーコードツールの例
- Bubble:Webアプリケーション開発の代表格。非常に高機能で、SNSやマッチングサイトのような複雑なアプリも、コードなしで開発可能。
- STUDIO / Webflow:Webサイト制作ツール。デザインの自由度が非常に高く、プロのデザイナーにも愛用されている。
- Adalo / Glide:スマートフォンアプリ開発ツール。スプレッドシートを元に、簡単にネイティブアプリが作成できる。
- Zapier / IFTTT:業務自動化ツール。「Gmailに添付ファイルが届いたら、自動でDropboxに保存する」といった、異なるサービス間の連携を自動化できる。
ローコードツールの例
- Microsoft Power Platform:ExcelやTeamsとの連携が強力な、Microsoft製のビジネスアプリ開発プラットフォーム。
- Salesforce Platform:世界No.1のCRM(顧客管理)ツールであるSalesforceの機能を、自由に拡張できる。
- OutSystems / Mendix:大規模な企業の基幹システム開発にも耐えうる、エンタープライズ向けのローコードプラットフォーム。
知っておくべき限界とデメリット
もちろん、ノーコード/ローコードは万能の銀の弾丸ではありません。その限界を正しく理解しておくことが重要です。
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機能・デザインの制約:ノーコードは、プラットフォームが提供する「部品」の範囲でしか、アプリを作れません。特殊なデザインや、独自の複雑なロジックを実装するのは困難です。
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プラットフォームへの依存(ベンダーロックイン):そのツール上で作ったアプリは、当然ながら、そのプラットフォームがサービスを終了してしまえば、動かなくなります。また、料金体系の変更などの影響を、直接受けます。
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大規模・高負荷な処理には不向き:何百万人ものユーザーが同時にアクセスするような、大規模なサービスの基盤としては、パフォーマンスや拡張性の面で、フルスクラッチ開発に劣る場合があります。
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セキュリティ:プラットフォーム側のセキュリティに依存するため、自社で細かいセキュリティ要件をコントロールするのは難しい場合があります。
エンジニアの仕事は、なくなるのか?
「これだけ簡単にアプリが作れるなら、プログラマーの仕事はなくなるんじゃないか?」
これは、多くの人が抱く不安であり、そして大きな誤解です。
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ノーコード/ローコードツールを作るのは、エンジニア
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そもそも、これらの便利なプラットフォーム自体が、優秀なエンジニアたちによる、高度なプログラミングの賜物です。
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ローコード開発には、エンジニアが不可欠
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ローコードの真価は、「簡単な部分はGUIで、複雑な部分はコードで」というハイブリッドな開発にあります。この「複雑な部分」を書けるのは、プロのエンジニアだけです。
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より高度で、創造的な仕事へのシフト
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ノーコード/ローコードが、定型的なアプリ開発を代替してくれるおかげで、エンジニアは、
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プラットフォームでは実現できない、高度で複雑なシステムの設計・開発
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AIやブロックチェーンといった、最先端技術の研究開発
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システム全体のパフォーマンスやセキュリティを担保する、より高度な専門領域
といった、**「人間にしかできない、より創造的で、付加価値の高い仕事」**に、集中できるようになるのです。
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まとめ
ノーコード/ローコードは、ソフトウェア開発を、一部の専門家のものから、すべてのビジネスパーソンのものへと民主化する、革命的なムーブメントです。
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ノーコードは、非エンジニアが、コードを一切書かずにアプリを作るためのツール。
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ローコードは、エンジニアが、最小限のコードで、素早く高品質なアプリを作るためのツール。
これらは、開発のスピードを劇的に向上させ、深刻なIT人材不足を解消し、企業のDXを加速させる、強力な切り札です。
そして、プログラミングを学ぶ初心者にとっても、これは大きなチャンスです。
まずはノーコードツールで「アプリ作りの楽しさ」や「アイデアを形にする感動」を体験し、
「もっと、ここをこうしたい!」という欲求が生まれたときに、プログラミングの世界に足を踏み入れる。
そんな、新しい学習の形も可能になるでしょう。
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