あなたが普段何気なく見ているWebサイト。おしゃれなデザイン、読みやすい文字、快適な操作性…。その「見た目」や「使い心地」は、一体誰がどのように作っているのでしょうか?
その中心的な役割を担うのが、今回ご紹介する**「マークアップエンジニア」**です。
「エンジニアって聞くと、なんだか難しそう…」「プログラマーと何が違うの?」そんな風に感じるかもしれません。しかし、マークアップエンジニアは、Webの世界における「建築家」や「インテリアデザイナー」のような、非常にクリエイティブでやりがいの大きい仕事なのです。
この記事では、マークアップエンジニアという仕事について、初心者の方にも分かりやすく、その仕事内容から必要なスキル、将来性、そして目指し方までを網羅的に解説していきます。
マークアップエンジニアの仕事とは?Webサイトの「骨格」と「装飾」を作る
マークアップエンジニアの主な仕事は、Webデザイナーが作成したデザイン案(デザインカンプ)を元に、HTMLとCSSという言語を使って、実際にブラウザで見られるWebページを構築することです。
これを家の建築に例えてみましょう。
1. HTMLで「骨格」を作る(マークアップ)
まず、家の土台や柱、壁といった「骨格」を作る作業が**「マークアップ」です。ここで使うのがHTML(HyperText Markup Language)**という言語。
HTMLは、Webページ上のテキストや画像が、それぞれどのような役割を持っているのかを定義(意味付け)する役割を担います。
例えば、
「このテキストは、このページで一番重要な**大見出し(<h1>)です」
「ここからここまでは、一つの段落(<p>)です」
「この画像はこれ(<img>)**です」
といったように、コンピューター(ブラウザや検索エンジン)が正しく内容を理解できるように、一つひとつの要素に「タグ」と呼ばれる目印を付けていきます。
この「意味付け」は、見た目以上に非常に重要です。正しくマークアップされたサイトは、Googleなどの検索エンジンに評価されやすくなり(SEO対策)、目の不自由な方が使う音声読み上げソフトも正確に情報を読み上げることができます(アクセシビリティ)。
つまり、マークアップエンジニアは、ただ見た目を組み立てるだけでなく、Webサイトの「情報としての価値」を高めるという重要な責務を負っているのです。
2. CSSで「内装や外装」を整える(スタイリング)
骨格(HTML)ができたら、次は壁紙を貼ったり、色を塗ったり、家具を配置したりして、住みやすく美しい空間に仕上げていきます。この「装飾」の役割を担うのが**CSS(Cascading Style Sheets)**です。
CSSを使うと、以下のようなことを実現できます。
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文字の色、大きさ、フォントの種類を変える
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背景に色や画像を指定する
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要素の配置場所(右寄せ、中央揃えなど)を調整する
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要素間の余白(マージンやパディング)を設定する
デザイナーが意図した通りのデザインを、1ピクセルの狂いもなくWeb上で再現するのが、マークアップエンジニアの腕の見せ所です。
3. JavaScriptで「動き」を加える
最近では、HTMLとCSSに加えて、JavaScriptという言語を使い、Webサイトにインタラクティブな「動き」を加えることもマークアップエンジニアの守備範囲に含まれることが増えてきました。
例えば、
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画像がふわっと表示されるアニメーション
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クリックすると開くアコーディオンメニュー
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自動で切り替わるスライドショー
こうした動きを加えることで、ユーザーにとってより魅力的で使いやすいWebサイトになります。
チームで創る!他の専門家との連携
Webサイト制作は、一人で行うものではなく、様々な専門家が協力し合うチームプレイです。マークアップエンジニアは、その中で「つなぎ役」として重要なポジションを担います。
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Webデザイナー: マークアップエンジニアの最も近いパートナーです。デザイナーが作ったデザイン案(設計図)を受け取り、それをWebページとして形にします。時には「このデザインは技術的に難しい」「スマホで見たときは、こうした方が使いやすいのでは?」といった専門的な視点から提案を行うこともあります。
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フロントエンドエンジニア: マークアップエンジニアと役割が近いですが、一般的にフロントエンドエンジニアは、より複雑なJavaScriptを使い、データベースとの通信やWebアプリケーションの機能開発などを担当します。マークアップエンジニアが作った「静的な見た目」に、高度な「動的な機能」を組み込むのがフロントエンドエンジニア、というイメージです。
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Webディレクター: プロジェクト全体の進行を管理する監督役です。ディレクターから指示を受け、スケジュールに沿って作業を進めます。
マークアップエンジニアになるためのスキルセット
マークアップエンジニアとして活躍するために必要なスキルを見ていきましょう。
【必須スキル】
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HTML: Webページの骨格を作る言語。ただ書けるだけでなく、意味的に正しい(セマンティックな)マークアップができることが重要です。
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CSS: 見た目を装飾する言語。PC、タブレット、スマートフォンなど、異なる画面サイズに応じて表示を最適化する「レスポンシブデザイン」の知識は必須です。**Sass(サス)**などの、CSSをより効率的に書くためのツールも使いこなせると強力です。
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JavaScript(基礎): スライドショーやメニュー開閉など、基本的な動きを実装するための知識。特に、jQueryというライブラリに頼らず、素のJavaScript(Vanilla JS)を書けるスキルが近年重視されています。
【あると強力なスキル】
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デザインツールの操作スキル(Figma, Adobe XDなど): デザイナーとの連携をスムーズにします。
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SEO(検索エンジン最適化)の知識: 検索結果で上位に表示されるためのHTML構造を理解していると、市場価値が上がります。
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アクセシビリティの知識: 高齢者や障がい者を含む、誰もが使いやすいWebサイトを作るための知識は、今後ますます重要になります。
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WordPressなどのCMSの知識: 世界中の多くのWebサイトで使われているWordPressのテーマ(デザインテンプレート)を作成・カスタマイズできるスキルは非常に重宝されます。
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Git/GitHubの知識: チームで開発を進める上で必須となるバージョン管理ツールのスキルです。
マークアップエンジニアの将来性は?AIに仕事は奪われない?
「AIが自動でコードを書いてくれるようになったら、マークアップエンジニアの仕事はなくなるのでは?」という不安を抱く方もいるかもしれません。
結論から言えば、マークアップエンジニアの将来性は明るいと言えます。
確かに、AIによって単純なコーディング作業は自動化されていくでしょう。しかし、それはマークアップエンジニアが「より本質的な業務に集中できる」ようになることを意味します。
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品質の判断: AIが生成したコードが、本当にデザインの意図を汲んでいるか、アクセシビリティやSEOの観点から最適か、最終的に判断するのは人間のエンジニアです。
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コミュニケーション: デザイナーやディレクターと対話し、課題を解決していくコミュニケーション能力はAIには代替できません。
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ユーザー視点: 「どうすればユーザーはもっと使いやすいと感じるか?」といった人間中心の視点に立った設計や提案は、今後さらに価値が高まります。
これからのマークアップエンジニアは、単なる「コーダー(コードを書く人)」ではなく、**Webサイトの品質に責任を持つ「フロントエンドの専門家」**としての役割が求められていくでしょう。
未経験から目指す!学習ロードマップ
最後に、未経験からマークアップエンジニアになるための具体的なステップをご紹介します。
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Step 1: 基礎学習
Progateやドットインストールといったオンライン学習サービスを利用して、HTML、CSS、JavaScriptの基礎を学びましょう。まずは全体像を掴むことが大切です。 -
Step 2: 模写コーディング
実在する好きなWebサイトを選び、見た目をそっくり真似してコーディングする「模写」に挑戦します。デザインをコードに変換する実践的な力が身につきます。 -
Step 3: ポートフォリオサイトの作成
自分のスキルを証明するための「作品集(ポートフォリオ)」として、架空のカフェやお店のWebサイトなどをゼロから作ってみましょう。これが転職活動で最も強力な武器になります。 -
Step 4: 転職活動
作成したポートフォリオを携えて、転職サイトやエージェントに登録し、未経験者歓迎の求人に応募します。
まとめ
マークアップエンジニアは、Webデザイナーのアイデアを形にし、ユーザーが直接触れる「Webサイトの顔」を作り上げる、非常にクリエイティブで専門性の高い仕事です。
技術の進化は速いですが、常に学び続ける意欲さえあれば、AI時代においてもその価値が失われることはありません。