
その「開発の進め方」には、実はいくつかの決まった型(手法)があります。
料理で言えば、「全ての材料と手順を完璧に決めてから一気に作るフレンチのフルコース」と、「味見をしながら最高の味を追求していく家庭のカレーライス」のような違いです。
この記事では、システム開発の世界で最も代表的な2つの手法、**「ウォーターフォール開発」と「アジャイル開発」**について、IT初心者の方でも「なるほど!」と頷けるように、具体例を交えながら徹底解説していきます。
【伝統の王道】ウォーターフォール開発とは?~完璧な設計図で一気に作り上げる~
まずご紹介するのは、古くからある伝統的な開発手法、「ウォーターフォール開発」です。
ウォーターフォール(Waterfall)とは、英語で「滝」を意味します。
その名の通り、一度流れ落ちたら後戻りできない滝のように、開発工程を一つずつ順番に進めていくのが最大の特徴です。
イメージは「家づくり」
ウォーターフォール開発を理解するのに最も分かりやすい例えは「家づくり」です。
家を建てる時、いきなり基礎工事を始めたりはしませんよね?
まず、「どんな家に住みたいか」(①要求定義)を家族で話し合います。
次に、建築家がその要望をもとに間取りや外観の設計図(②基本設計)を描き、さらに大工さんが実際に建てるための柱の位置や配管などを記した詳細な設計図(③詳細設計)を作成します。
全ての設計図が完璧に完成し、全員が合意して初めて、基礎工事や組み立て(④開発)が始まります。そして、家が完成したら、電気はつくか、雨漏りはしないかなどを徹底的にチェック(⑤テスト)し、問題がなければようやく引き渡し(⑥リリース)となります。
ウォーターフォール開発のメリット
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計画が立てやすい
家づくりのように、最初に全体の設計図を完成させるため、「いつまでに完成するか」「総額でいくらかかるか」といったスケジュールや予算の見積もりが非常に立てやすいです。 -
進捗管理がしやすい
「今は設計の段階」「今はテストの段階」と、各工程が明確に区切られているため、プロジェクト全体の進み具合を把握しやすいです。 -
品質を確保しやすい
各工程で設計書などのドキュメントをきっちり作成するため、担当者が変わっても引き継ぎがしやすく、全体の品質を安定させることができます。銀行のシステムや公共インフラなど、仕様が固まっていて、高い信頼性が求められる大規模プロジェクトに向いています。
ウォーターフォール開発のデメリット
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後戻りが非常に困難
最大の弱点は、その名の通り「後戻りできない」ことです。家を建て始めてから「やっぱりリビングを広くしたい」と思っても、もう手遅れですよね。システム開発も同じで、テストの段階で設計の重大なミスが見つかった場合、前の工程に戻ってやり直すのに膨大な時間とコストがかかってしまいます。 -
仕様変更に極めて弱い
開発の途中で「こんな機能も追加したい」「今の流行に合わせてデザインを変えたい」といった変更に対応するのが非常に困難です。最初に決めた計画通りに進めることが前提だからです。 -
完成するまで動くものが見られない
ユーザーは、最後の最後まで完成品を見ることができません。そのため、何ヶ月も待ってようやく完成したものを見て、「思っていたものと全然違う…」という悲劇が起こるリスクがあります。
【現代の主流】アジャイル開発とは?~味見を繰り返して最高の料理を作る~
ウォーターフォールの弱点を克服するために生まれたのが、「アジャイル開発」です。
アジャイル(Agile)とは、英語で「素早い」「機敏な」を意味します。その名の通り、状況の変化に素早く対応しながら、短いサイクルで開発を繰り返していくのが特徴です。
イメージは「みんなで作るカレーライス」
アジャイル開発のイメージは、「友人たちとみんなで作るカレーライス」です。
最初に「とりあえず美味しいカレーを作ろう!」という大まかなゴールだけを決めます。
まず、**1週間という短い期間(これを「スプリント」や「イテレーション」と呼びます)**で、「最低限食べられる状態のカレー(例えば、具材を炒めて煮込んだだけのもの)」を作ります。そして、みんなで味見(フィードバック)をします。
「もっと辛い方がいいね」「隠し味にチョコレートを入れてみようか」
その意見をもとに、次の1週間でカレールーを足したり、スパイスを追加したりして、カレーを改良します。これを何度も何度も繰り返し、少しずつ「最高のカレー」に近づけていくのです。
アジャイル開発のメリット
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仕様変更に強い
短いサイクルで計画を見直すため、「やっぱりこっちの機能を優先したい」「新しいアイデアが出たので試したい」といった変化に柔軟に対応できます。これは、市場の変化が速いWebサービスやスマホアプリの開発に非常に向いています。 -
顧客満足度が高い
早い段階から実際に動くものを顧客に触ってもらい、意見を聞きながら開発を進めるため、「作って欲しかったもの」と完成品のズレが起こりにくくなります。 -
リスクを早期に発見できる
毎週のように動くものを作るので、もし何か問題があっても、早い段階で発見し、修正することができます。プロジェクトが破綻するような大きな失敗になりにくいです。
アジャイル開発のデメリット
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全体のスケジュールや予算が見えにくい
最初に厳密な計画を立てないため、「最終的にいつ完成するのか」「総額はいくらになるのか」を正確に見積もることが難しいです。 -
方向性がブレやすい
顧客の意見を柔軟に取り入れるあまり、当初の目的からどんどんズレてしまい、「結局何を作りたかったんだっけ?」と方向性を見失ってしまうことがあります。 -
高いコミュニケーション能力が求められる
開発チーム内や顧客との間で、密にコミュニケーションを取り、頻繁に認識を合わせる必要があります。これができないと、プロジェクトはうまく進みません。
まとめ:結局、どっちがいいの?
ここまで読んで、「じゃあ、アジャイルの方が優れているの?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、これは優劣の問題ではなく、「何を作るか」によって向き不向きがある、という話です。
項目 | ウォーターフォール開発 | アジャイル開発 |
計画 | 最初に完璧な計画を立てる | 短い計画を繰り返す |
仕様変更 | 苦手(原則NG) | 得意(大歓迎) |
得意な分野 | 銀行システム、公共インフラなど<br>(仕様が固まっている大規模開発) | Webサービス、スマホアプリなど<br>(市場の変化が速い新規開発) |
例えるなら | 地図を頼りに目的地へ向かう旅 | コンパスを頼りに冒険する旅 |
ウォーターフォールは、ゴールが明確に決まっていて、絶対に失敗が許されないプロジェクトでその強みを発揮します。
一方、アジャイルは、まだ誰も見たことのない新しいサービスを作ったり、顧客と一緒に正解を探していくようなプロジェクトで輝きます。
今日、あなたが何気なく触れているシステムやアプリも、このような「開発手法」という設計思想のもとで作られています。
この知識があるだけで、IT関連のニュースやエンジニアたちの会話が、少しだけ深く理解できるようになるはずです。
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