
「新しいビジネスを始めるにあたって、どんなIT戦略をとるべきだろうか?」
企業の経営者が、このような壮大な課題に直面したとき、その傍らで的確な助言を与え、企業の未来を左右するIT戦略を策定する、最高峰の頭脳。それが**「ITストラテジスト」**です。
一言でいうと、ITストラテジストとは**「企業の経営戦略を深く理解し、その目標を達成するために、ITをどのように活用すべきかという『IT戦略』を立案し、その実現を推進する、超上流の専門家」**のことです。
この記事では、IT知識ゼロの初心者の方でもITストラテジストの仕事がわかるように、わかりやすく解説していきます。ITキャリアの頂点とも言える、知的な仕事の世界に迫りましょう。
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ITストラテジストの具体的な仕事内容
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他の職種(ITコンサルタントなど)との違い
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なぜ今、ITストラテジストが必要なのか?
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求められるスキルと、その険しい道のり
ITストラテジストの仕事:企業の「未来の航路図」を描く
ITストラテジストの仕事は、特定のシステム開発プロジェクトよりも、さらに前の段階、つまり**「何をすべきか」を決定する、最も上流の工程**に位置します。
1. 経営戦略の理解とビジネス環境の分析:「会社の現在地」を把握する
すべての始まりは、企業のトップ、つまり経営層との対話です。
「5年後に業界No.1を目指す」
「海外市場に進出したい」
「少子高齢化に対応できる、新しいビジネスモデルを構築したい」
ITストラテジストは、こうした企業のビジョンや経営目標を深く理解します。それと同時に、市場のトレンド、競合他社の動向、新しいテクノロジーの出現といった外部環境や、自社の強み・弱みといった内部環境を、フレームワーク(SWOT分析、PEST分析など)を用いて徹底的に分析します。
2. IT戦略の策定:「目的地への最適航路」を設計する
現状分析が終わると、いよいよIT戦略の策定です。これは、経営戦略とITを結びつける、ITストラテジストの核となる仕事です。
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ITグランドデザインの策定:企業の数年先を見据えた、ITシステム全体の理想像(グランドデザイン)を描きます。「将来的には、すべてのシステムをクラウドに移行し、データを一元管理してAIで分析できる基盤を構築する」といった、大きな方針を定めます。
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事業ごとのIT戦略立案:「新規事業のECサイトでは、最新の顧客体験(CX)を提供できるヘッドレスコマース技術を採用する」「既存の工場では、IoTを導入して生産効率を15%向上させる」といった、個別の事業目標を達成するための具体的なIT活用策を立案します。
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投資対効果(ROI)の評価:提案するIT戦略には、莫大な投資が必要です。その投資によって、どれくらいの利益が見込めるのか(ROI)、どれくらいのリスクがあるのかを定量的に評価し、経営者が投資判断を下すための客観的な材料を提示します。
3. IT戦略の推進と評価:航海が正しく進んでいるか監督する
戦略は、立てて終わりではありません。
それが確実に実行され、成果に繋がっているかを見届けるまでがITストラテジストの役割です。
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個別プロジェクトの統括:立案したIT戦略は、複数の具体的なシステム開発プロジェクトに分解されて実行されます。ITストラテジストは、これらのプロジェクトが、当初の戦略目標から逸脱していないかを、高い視点から監督・評価します。プロジェクトマネージャー(PM)が個々のプロジェクトの責任者なら、ITストラテジストはそれらのプロジェクト群全体の責任者(プログラムマネージャー)に近い役割を担うこともあります。
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CIOや経営層への報告:IT戦略の進捗状況や成果を、定期的にCIO(最高情報責任者)や経営層に報告し、必要に応じて戦略の見直しを提言します。
他の職種との違いは?
ITストラテジストの役割をより明確にするために、よく似た職種との違いを見てみましょう。
ITストラテジスト vs ITコンサルタント
両者は非常に近い存在ですが、立場に違いがあります。
ITコンサルタントは、主にコンサルティングファームに所属し、**「社外の第三者」として、クライアント企業にIT戦略を提案します。
一方、ITストラテジストは、「企業の内部の人間(情報システム部門のトップなど)」**として、自社の経営戦略と一体となってIT戦略を立案・推進することが多いです。ただし、近年はこの境界線も曖昧になりつつあります。
ITストラテジスト vs プロジェクトマネージャー(PM)
責任の対象が異なります。
PMは、「決められたシステム開発プロジェクト」を、納期・コスト・品質を守って完成させることに責任を持ちます。
一方、ITストラテジストは、「そもそも、どのプロジェクトを、なぜやるべきなのか」という、事業全体の成功に責任を持ちます。
PMが「戦術家」なら、ITストラテジストは「戦略家」です。
なぜ今、ITストラテジストが重要なのか?
現代のビジネス環境において、ITストラテジストの重要性は飛躍的に高まっています。
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DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速:単なる業務効率化のためではなく、デジタル技術を使ってビジネスモデルそのものを変革する「DX」が、あらゆる企業にとっての最重要課題となっています。このDXを成功に導くには、経営とITの両方を深く理解したITストラテジストの存在が不可欠です。
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ITが「コスト」から「投資」へ:かつてITは、業務を支えるための「コスト(経費)」と見なされていました。しかし今や、ITは新たな価値を生み出し、競争優位を築くための**「戦略的な投資」**と位置づけられています。この重要な投資判断を誤らないために、専門家であるITストラテジストが求められています。
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技術の高度化・複雑化:AI、IoT、クラウド、ブロックチェーンなど、新しい技術が次々と登場しています。これらの技術が自社のビジネスにどのような影響を与え、どう活用できるのかを正しく見極めるには、高度な知見が必要です。
ITストラテジストに求められるスキルと、その険しい道のり
ITストラテジストは、ITキャリアの最高峰に位置する職種の一つであり、求められるスキルも非常に高度で多岐にわたります。
求められるスキル
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経営戦略・事業戦略に関する深い知識:MBAで学ぶような、経営や会計、マーケティングに関する体系的な知識。
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業界・業務に関する専門知識:自身が関わる業界(金融、製造など)の動向や、業務プロセスに関する深い理解。
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ITに関する広範で最新の知識:特定の技術だけでなく、ITトレンド全般を俯瞰し、ビジネスへの応用を見通す力。
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超高度な論理的思考力と構想力:複雑な情報を整理し、本質的な課題を見抜き、壮大な未来の構想を描く力。
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卓越したコミュニケーション能力とリーダーシップ:企業のトップである経営層と対等に渡り合い、彼らを納得させ、組織全体を動かしていく強力なリーダーシップ。
ITストラテジストになるには?
この職種には、決まったキャリアパスはありません。また、新卒や未経験から直接なれるものでは、まずありません。ITとビジネスの両面で、最低でも10年以上の豊富な経験を積んだ人が、ようやくたどり着けるポジションです。
考えられるキャリアパスとしては、
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大手SIerや事業会社でPM/PLとして大規模プロジェクトを多数経験し、昇進する。
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ITコンサルタントとして、様々な企業の戦略立案を経験し、専門性を高める。
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CIO(最高情報責任者)や、それに準ずる役職を目指す。
国家資格「ITストラテジスト試験」
経済産業省が認定する情報処理技術者試験の中でも、最高難易度(スキルレベル4)に位置づけられる国家資格です。
この資格を持っていることは、ITストラテジストとしての高度な能力を客観的に証明する、非常に強力な武器となります。合格率は毎年15%前後と、極めて難関です。
「自分のスキルを客観的に証明したい」「他のエンジニアと差をつけ、キャリアアップを実現したい」 システムエンジニア(SE)として働く中で、このように考えたことはありませんか?そのための最も確実な手段の一つが、高難易度の資格取得で[…]
まとめ
ITストラテジストは、もはや単なるITの専門家ではありません。**経営者の視点でビジネスの未来を洞察し、ITという最強の武器を駆使して、企業の航路を成功へと導く、現代の「軍師」**です。
その道のりは長く険しく、誰もがたどり着ける場所ではありません。
しかし、もしあなたが、技術の先にあるビジネスの成功に強い興味を持ち、自らの知力で企業の未来を創造したいと本気で願うなら、ITストラテジストという頂きを目指す価値は、十分にあります。
それは、ITプロフェッショナルとして到達しうる、最もエキサイティングで、最も影響力の大きな仕事の一つなのです。
「もっと上流工程に携わりたい」 「モダンな技術環境で開発したい」 「年収を大幅にアップさせたい」 向上心のあるSE(システムエンジニア)の方なら、一度はキャリアアップのための転職を考えたことがあるのではないでしょうか。 […]