
「よく聞くSIerって、一体何をしている会社なの?」
IT業界への就職・転職を考え始めると、必ずと言っていいほど目にするのが**「SIer(エスアイヤー)」**という言葉です。
NTTデータ、富士通、日立製作所…名だたる大企業の多くが、このSIerに分類されます。
しかし、その具体的な仕事内容は、意外と知られていないかもしれません。
一言でいうと、SIerとは**「ITに関する専門知識や技術を持たない企業(顧客)から依頼を受け、その企業の課題を解決するための情報システムを、企画から開発、運用・保守まで、すべてを請け負って提供する、ITの総合サービス企業」**のことです。
この記事では、IT知識ゼロの初心者の方でもSIerの全体像がわかるように、わかりやすく解説していきます。
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SIerの具体的な仕事の流れ
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SIerの種類(メーカー系、ユーザー系、独立系)
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SIerで働くメリット・デメリット
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気になる将来性と、どんな人に向いているか
SIerの仕事の流れ:システムの「ゆりかごから墓場まで」を請け負う
SIerのビジネスの根幹は**「SI(System Integration / システムインテグレーション)」**、つまり「システムの統合・構築」です。顧客の課題解決のため、様々なハードウェアやソフトウェアを組み合わせて、最適な一つのシステムを創り上げます。その仕事は、非常に広範囲に及びます。
1. コンサルティング・企画:「ITのお医者さん」として課題を診断
すべての始まりは、顧客の「困りごと」をヒアリングすることからです。
「古い会計システムを新しくして、業務を効率化したい」
「全国の店舗の売上を、本社でリアルタイムに把握したい」
「サイバー攻撃への備えが不安だ」
2. 要件定義・設計:「理想の家」の設計図を描く
プロジェクトの方向性が決まったら、システムエンジニア(SE)が中心となって、システムの具体的な仕様を決めていきます。
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要件定義:顧客の要望を、「こういう機能が必要」「画面はこういう表示にする」といった、開発できるレベルの具体的な「要件」に落とし込みます。
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設計:要件定義書をもとに、システムの全体構造(アーキテクチャ)や、画面のデザイン、データの流れなどを記した「設計図」を作成します。
3. 開発・構築:「設計図」を「本物のシステム」にする
設計図が完成したら、いよいよプログラマー(PG)やインフラエンジニアが、実際にシステムを構築していきます。
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プログラミング:設計書に基づき、プログラマーがコードを書いて、アプリケーションの機能を作り上げます。
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インフラ構築:システムが動くための土台となるサーバーやネットワークを、インフラエンジニアが構築します。
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パッケージ導入:SAPのような既製のソフトウェア(パッケージ)を導入し、顧客の業務に合わせて設定(カスタマイズ)することもあります。
4. テスト:品質を保証する最終チェック
完成したシステムが、設計通りに正しく動くか、バグ(不具合)がないかを徹底的にテストします。
この品質チェックをクリアして初めて、顧客に納品することができます。
5. 導入・運用・保守:「完成後」も長く付き合う
システムを顧客の環境に導入し、無事に稼働を開始した後も、SIerの仕事は終わりません。
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導入支援:社員向けに、新しいシステムの使い方の研修会などを実施します。
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運用・保守:システムが24時間365日、安定して稼働するように監視し、障害が発生すれば迅速に対応します。また、「新しい機能を追加したい」といった、将来の改修の相談にも乗ります。
SIerの3つの種類:それぞれの「成り立ち」と「強み」
SIerは、その成り立ちによって、大きく3つの種類に分類されます。
それぞれに特徴があり、働く上での環境も異なります。
1. メーカー系SIer
例 | 富士通、日立製作所、NECなど |
特徴 | パソコンやサーバーといったハードウェアを製造する、大手電機メーカーの情報システム部門が独立・分社化した企業です。 |
強み | 親会社の強力なブランド力と、自社製品(ハードウェア)を組み合わせた大規模な提案が得意です。官公庁や金融機関など、社会インフラとなるような巨大プロジェクトを数多く手掛けています。安定性が高く、福利厚生が充実しているのも魅力です。 |
2. ユーザー系SIer
例 | NTTデータ(元々はNTTの社内システム部門)、野村総合研究所(NRI)、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)など |
特徴 | 商社、金融、通信といった、IT以外の事業を行う大手企業の、情報システム部門が独立・分社化した企業です。 |
強み | 親会社の業界(金融、流通など)に関する、深い業務知識を持っていることが最大の武器です。親会社のシステムを長年扱ってきたノウハウを活かし、同じ業界の他の企業に対しても、専門性の高いソリューションを提供します。 |
3. 独立系SIer
例 | 大塚商会、TIS、BIPROGY(旧:日本ユニシス)など |
特徴 | 親会社を持たず、独自の経営判断で事業を展開する企業です。 |
強み | メーカーや製品に縛られない、中立的な立場が強みです。顧客にとって本当に最適なハードウェアやソフトウェアを、世界中のあらゆるベンダーから自由に選んで組み合わせ、提案することができます。特定の業界に特化したり、独自の技術を武器にしたりと、個性的な企業が多いのも特徴です。 |
SIerで働くメリット・デメリット
SIerは、日本のIT業界の多くの人材が働く場所であり、その働き方には良い面も、大変な面もあります。
メリット
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大規模で社会貢献性の高い仕事に関われる:銀行のシステム、交通機関の運行システム、政府の電子申請システムなど、人々の生活に不可欠な社会インフラを支える、スケールの大きな仕事に携わるチャンスがあります。
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教育・研修制度が充実している:特に大手SIerは、新入社員向けの研修制度が非常に手厚く、未経験からでもITの基礎を体系的に学ぶことができます。
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安定性と福利厚生:経営基盤が安定している大企業が多く、給与や福利厚生といった待遇面が充実している傾向にあります。
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マネジメントスキルが身につく:多くの協力会社や部署と連携しながらプロジェクトを進めるため、調整能力やプロジェクト管理能力といった、マネジメントスキルが若いうちから身につきます。
デメリット
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多重下請け構造:大手SIerが受注した案件の開発工程が、二次請け、三次請けの会社へと再委託されていく「多重下請け構造」が存在します。元請けのSIerの社員は、プログラミングなどの実作業に直接関わらず、協力会社の管理(マネジメント)が主な仕事になることも少なくありません。「自分でコードを書きたい」という志向の人には、ミスマッチになる可能性があります。
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レガシーな技術や縦割り文化:顧客が官公庁や大企業であることが多く、古くから使われている技術(レガシーシステム)の保守・運用案件が中心になることもあります。また、組織が大きいため、縦割り文化や、意思決定のスピードが遅いと感じる場面もあるかもしれません。
SIerの将来性と、向いている人
「クラウドの普及で、SIerの仕事はなくなるのでは?」という声も聞かれますが、結論から言うと、SIerの役割がなくなることはありません。
確かに、企業が自前でサーバーを持たず、クラウドサービスを利用するのが当たり前になりました。しかし、**「どのクラウドサービスを、どう組み合わせて、自社の業務に最適化するか」**という、新たな、そしてより高度なSIの需要が生まれています。SIerは、従来のシステム構築から、クラウド導入支援やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のパートナーへと、その役割を進化させているのです。
「最近、ニュースや新聞で『DX(ディーエックス)』って言葉をよく見るけど、一体何のこと?」「IT化とか、デジタル化と何が違うの?」 今、ビジネスの世界で最も重要なキーワードの一つ、それが**「DX(デジタルトラ[…]
【SIerに向いている人】
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コミュニケーション能力が高い人:顧客や多くの協力会社と円滑に連携し、調整する能力が不可欠です。
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マネジメントに興味がある人:将来的にプロジェクトマネージャー(PM)として、人や組織を動かしたいと考えている人。
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大規模プロジェクトに魅力を感じる人:社会インフラを支えるような、大きなスケールの仕事にやりがいを感じる人。
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安定した環境で働きたい人:充実した研修や福利厚生のもと、着実にキャリアを築いていきたい人。
まとめ
SIerは、顧客の課題解決のために、ITに関するあらゆるサービスをワンストップで提供する、頼れる総合パートナーです。
その仕事は、華やかなWebサービスを自社で開発するような企業とは少し異なりますが、日本の社会や経済を根底から支える、非常に重要でやりがいに満ちたものです。
特に、IT未経験からこの業界に飛び込む人にとって、SIerが提供する手厚い教育環境と、大規模プロジェクトを通じて得られる体系的な知識は、その後のキャリアを築く上で、財産となるでしょう。
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