
「ABAP(アバップ)って聞いたことあるけど、普通のプログラミングと何が違うの?」
IT業界、特に大企業のシステムに関わる世界では、「SAP」という言葉が頻繁に登場します。
そして、そのSAPを専門に扱うエンジニアは、市場で非常に高い価値を持つ専門職として知られています。
その中でも、特に技術面に特化したプロフェッショナルが**「SAPエンジニア(ABAPer)」**です。
一言でいうと、ABAPerとは**「世界標準の超高性能なシステムキッチン(=SAP)を、顧客の要望に合わせてカスタマイズしたり、足りない機能を追加したりする凄腕の職人」**のことです。
この記事では、IT業界初心者の方でもABAPerの仕事がわかるように、わかりやすく解説していきます
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そもそもSAPとABAPって何?
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ABAPerの具体的な仕事内容
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普通のプログラマーとの違い
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ABAPerの魅力と将来性、そしてなるための道
大前提:SAPとABAPの関係を理解しよう
ABAPerの仕事を理解するには、まず「SAP」と「ABAP」という2つのキーワードの関係を知る必要があります。
SAPとは?「企業の経営を支える、完成されたパッケージ」
SAPとは、ドイツのSAP社が開発した、企業の基幹業務(会計、販売、在庫、生産、人事など)を統合管理するためのERPパッケージソフトウェアです。
多くの大企業は、このSAPという「完成されたソフトウェア」を導入することで、世界標準の優れた業務プロセスを手に入れます。例えるなら、**一流シェフたちが考え抜いた、完璧な動線と機能を備えた「システムキッチン」**のようなものです。このキッチンさえあれば、誰でもある程度、効率よく美味しい料理が作れます。
ABAPとは?「SAP専用のプログラミング言語」
しかし、どんなに優れたシステムキッチンでも、「うちの店は、もう少しシンクが大きければ…」「ここに、中華鍋専用のコンロが欲しい」といった、個別の要望が出てくるものです。
そこで登場するのが**「ABAP(アバップ / Advanced Business Application Programming)」**です。
ABAPとは、SAPのシステムをカスタマイズしたり、機能を追加したりするために使われる、SAP専用のプログラミング言語です。
つまり、下記のような関係になります。
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SAP:製品本体(システムキッチン)
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ABAP:SAPを改造するための専用言語(専用の工具と設計図の書き方)
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ABAPer:ABAPを使いこなし、SAPを改造する職人(キッチン職人)
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ABAPer(SAPエンジニア)の具体的な仕事内容
ABAPerの仕事は、大きく分けて「開発(プログラミング)」と「保守」の2つです。
その中で、主に以下の3つの種類の開発を行います。
1. アドオン開発:「ないなら、作る!」
SAPの標準機能だけでは実現できない、企業独自の要件を満たすための新しい機能をゼロから開発することです。これがABAPerの最も代表的な仕事です。
具体例
- 日本企業特有の複雑な帳票(請求書や納品書など)を出力するプログラムを作る。
- 業界独自の特殊な計算ロジックを組み込んだレポート画面を作る。
- SAPと、他の社内システム(例:自社開発の勤怠管理システム)を連携させるためのデータ送受信プログラムを作る。
2. カスタマイズ:「少しだけ、変える!」
SAPには、ある程度ユーザーが設定を変更できる「カスタマイズ」機能が用意されています。しかし、それでも対応できない細かな要件については、ABAPを使って既存のプログラムの動きを少しだけ変更することがあります。
具体例
- 標準画面の入力項目の順番を、ユーザーが使いやすいように並べ替える。
- 特定のボタンを押したときの動作を、企業独自のルールに合わせて変更する。
3. バージョンアップ対応:「古くなったものを、新しくする!」
SAPもソフトウェアなので、定期的に新しいバージョンがリリースされます(バージョンアップ)。その際、古いバージョンで動いていたアドオン開発のプログラムが、新しいバージョンでも問題なく動くように修正・調整するのもABAPerの重要な仕事です。
ABAPer(SAPエンジニア)と一般的なプログラマーとの違い
ABAPerもプログラマーの一種ですが、一般的なWebプログラマーなどとは、いくつかの点で大きく異なります。
ABAPer | 一般的なWebプログラマーなど | |
扱う言語 | ABAP(SAP専用) | Java, Python, Ruby, PHPなど(汎用) |
開発対象 | SAPという巨大で完成されたパッケージ | Webサイト、スマホアプリなどゼロから作ることが多い |
求められる知識 | ABAP言語の知識+SAPの業務知識 | プログラミング言語の知識+Web技術など |
仕事のスタイル | 「すでにあるもの」を理解し、拡張・修正する | 「何もないところ」から新しいものを作る |
キャリア | SAPの世界で専門性を深めていく | 様々な技術やサービスを渡り歩くことも可能 |
最大の違いは、**「SAPの業務知識が不可欠」**という点です。
ABAPer(SAPエンジニア)の魅力と将来性
専門性が高いABAPerには、他のエンジニアにはない魅力があります。
魅力・やりがい
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高い専門性と市場価値:ABAPとSAP業務知識の両方を持つ人材は限られており、非常に希少価値が高いです。そのため、一般的に高収入を得やすく、景気に左右されにくい安定したキャリアを築けます。
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大規模プロジェクトに関われる:SAPを導入するのは、基本的に国内外の大企業です。社会に大きな影響を与える、スケールの大きな仕事に携わることができます。
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ビジネスの根幹を支える実感:企業の経営そのものを支えるシステムに直接関わるため、「自分の仕事がビジネスを動かしている」という強い実感とやりがいを得られます。
将来性
「SAP専用の言語なんて、将来性はあるの?」と心配になるかもしれません。結論から言うと、ABAPerの将来性は非常に明るいです。
その理由は、
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SAPの圧倒的なシェア:一度SAPを導入した企業は、莫大な投資をしているため、簡単には他のシステムに乗り換えません。既存システムの保守・改修の需要は、今後もなくなりません。
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SAP S/4HANAへの移行:現在、多くの企業が旧世代のSAPから最新の「SAP S/4HANA」への移行を進めています。この移行には、既存のABAPプログラムの修正や再開発が大量に発生するため、ABAPerの需要が世界的に高まっています。
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新しいABAPの登場:S/4HANAの登場に伴い、ABAPも進化しています。クラウド環境での開発に適した新しい記述方法などが登場しており、今後も活躍の場は広がり続けます。
ABAPer(SAPエンジニア)になるには?
未経験からABAPerを目指すことは可能ですが、一般的なプログラマーとは少し異なるルートをたどることが多いです。
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IT企業に入社し、SAP案件に配属される
最も一般的なルートです。新卒や第二新卒でIT企業(特にSIerと呼ばれる大手ITサービス企業)に入社し、社内研修を受けた後、SAPを扱うプロジェクトに配属されることでキャリアがスタートします。 -
未経験者向けの研修がある企業を狙う
ABAPerは需要が高いため、企業によっては未経験者を対象としたABAP研修プログラムを用意している場合があります。そうした求人を探すのも一つの手です。 -
プログラミングの基礎を学んでおく
必須ではありませんが、JavaやC#など、何かしらのオブジェクト指向言語の学習経験があると、ABAPの概念を理解しやすくなり、選考で有利に働く可能性があります。
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まとめ
SAPエンジニア(ABAPer)とは、SAPという巨大なパッケージシステムを、ABAPという専用言語を駆使して企業のニーズに合わせて最適化する、高度な専門職です。
それは、汎用的な言語を扱うエンジニアとは一線を画し、「SAP」という深く、広大な世界を探求し続けるキャリアです。
求められる知識は多いですが、その分、高い市場価値と安定性を手に入れることができます。
もしあなたが、
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一つの分野を深く極める職人タイプの仕事に惹かれる
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安定した環境で、長く活躍できるスキルを身につけたい
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大企業のビジネスを根幹から支える、スケールの大きな仕事がしたい
と考えるなら、ABAPerというキャリアは、あなたの未来を切り拓くための非常に魅力的な選択肢となるでしょう。
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