【初心者向け】ABAPとは?SAP専用言語の正体から学習方法まで徹底解説

【初心者向け】ABAPとは?SAP専用言語の正体から学習方法まで徹底解説

【初心者向け】ABAPとは?SAP専用言語の正体から学習方法まで徹底解説
疑問に思う顔
「ABAP(アバップ)ってなに?」
「どういうプログラミング言語?」

 

プログラミング言語の世界には、Webサイトを作るためのPHPやRuby、AI開発で人気のPythonなど、華やかなスター選手がたくさんいます。

しかし、その陰には、特定の分野で圧倒的な力を発揮し、知る人ぞ知る高い価値を持つ「専門職」の言語が存在します。

 

その代表格が、今回解説する**「ABAP(アバップ)」**です。

一言でいうと、ABAPとは**「世界中の大企業が使う、超巨大な経営システム『SAP』を、自由自在に操るための専用の魔法の呪文(プログラミング言語)」**のことです。

 

一般的なプログラミング言語が、様々な場所で使える「万能ナイフ」だとすれば、ABAPは「特定の超精密機械(=SAP)を分解・修理・改造するためだけに作られた、特殊な専用工具セット」のような存在。他の場所では全く役に立ちませんが、その専門分野では他のどんな工具も太刀打ちできない、圧倒的な力を発揮します。

 

この記事では、プログラミング初心者の方でもABAPの特殊な世界がわかるように、わかりやすく徹底的に解説していきます。

 

  • ABAPが使われる「SAP」とは何か?

  • ABAPで具体的に何ができるのか?

  • 他のプログラミング言語との決定的な違い

  • ABAPを学ぶことの価値と、その学習方法

 

ABAPを理解する大前提:巨大帝国「SAP」とは?

ABAPを理解する大前提:巨大帝国「SAP」とは?

 

ABAPを理解するには、まずその活躍の舞台である「SAP」を知る必要があります。

 

SAPとは、ドイツのSAP社が開発した、企業のあらゆる経営活動(会計、販売、在庫管理、生産、人事など)を、一つの巨大なシステムで統合管理するためのERP(統合基幹業務システム)パッケージです。

世界中の名だたる大企業の多くが、このSAPを導入することで、自社の経営を効率化しています。つまり、SAPは企業の「頭脳」や「神経網」として、ビジネスの根幹を支える、極めて重要な存在なのです。

そして、このSAPという巨大な帝国の中で、唯一公用語として使われているのが「ABAP」というわけです。

 

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ABAPで何ができるのか?:完成されたシステムへの「追加」と「改造」

ABAPで何ができるのか?:完成されたシステムへの「追加」と「改造」

 

SAPは、それ自体が非常に完成度の高い「パッケージソフトウェア」です。

 

世界中の優良企業の仕事の進め方(ベストプラクティス)があらかじめ組み込まれているため、設定を変更するだけでも多くの業務に対応できます。

しかし、どんな企業にも「自社独自の特別なルール」や「業界特有の帳票」といった、標準機能だけではカバーしきれない要件が存在します。

そこでABAPの出番です。ABAPを使うことで、この完成されたSAPシステムに、**「追加(Add-on)」「改造(Modify)」**を施すことができるのです。

 

ABAPプログラマー(通称:ABAPer / アバッパー)の主な仕事は、以下の3つです。

 

1. レポート開発(帳票開発)

日本の企業は、法律や商習慣によって定められた、非常に複雑なフォーマットの帳票(請求書、納品書、発注書など)を必要とすることが多いです。SAPの標準機能だけでは対応できない、これらの日本独自の帳票を出力するためのプログラムをABAPで開発します。これはABAPerの代表的な仕事の一つです。

 

2. アドオン開発

SAPの標準機能にはない、企業独自の業務機能(プログラムや画面)を、ABAPでゼロから開発します。これを「アドオン(Add-on)開発」と呼びます。例えば、「特殊な条件で割引計算を行う画面」や、「複数のシステムからデータを集めてきて、独自の分析レポートを作成する機能」など、その内容は多岐にわたります。

 

3. 他システム連携

企業内には、SAP以外にも様々なシステムが存在します(例:自社開発の勤怠管理システム、外部の倉庫管理システムなど)。これらの外部システムとSAPの間で、データを自動的にやり取り(連携)するためのプログラムをABAPで開発します。

 

ABAPと他の言語との決定的な違い

ABAPと他の言語との決定的な違い

 

ABAPは、他のプログラミング言語とは一線を画す、非常にユニークな特徴を持っています。

 

1. 用途が「SAP内部」に限定される

これが最大の特徴です。PythonやJavaがWebサイトからAI、スマホアプリまで作れるのに対し、ABAPはSAPシステムの中でしか動かせません。 SAPの外の世界では、ABAPは全くの無力です。この極端な専門性が、ABAPの価値と特殊性を生み出しています。

 

2. データベース操作が言語に組み込まれている

通常のプログラミングでは、データベースを操作するために「SQL」という専用の言語を、プログラムの中に埋め込んで使います。
しかしABAPでは、**「Open SQL」**という、SQLによく似た命令が言語の仕様として組み込まれており、SQLを知らなくても直感的にデータベース操作が記述できます。これは、SAPが巨大なデータベースと密接に連携して動くシステムであるためです。

 

3. 独自の開発環境「ABAPワークベンチ」

ABAPのプログラムは、メモ帳やVS Codeのような一般的なテキストエディタでは開発しません。**「ABAPワークベンチ」**という、SAPシステムに内蔵された専用の統合開発環境(IDE)を使って開発します。プログラムも、自分のPCではなく、SAPサーバー上に直接保存されます。

 

4. データ型が豊富で、ビジネス寄り

ABAPには、通貨(CURR)や数量(QUAN)といった、ビジネス計算でよく使われるデータ型が最初から用意されています。また、「会社コード」「伝票番号」といったSAPの業務で使われる項目に対応したデータ型も定義されており、いかにABAPが「ビジネスアプリケーションのため」に作られた言語であるかがわかります。

 

5. COBOLの影響を受けた、やや古い文法

ABAPは1980年代に生まれた言語で、その文法は、同じくビジネス用途で広く使われた「COBOL」という言語の影響を強く受けています。
例えば、文の終わりにはピリオド(.)をつけたり、現代の言語ではあまり見られないような、やや冗長な記述をしたりします。

 


Generated abap

" 「HELLO, ABAP!」と画面に出力するプログラム
REPORT Z_HELLO_WORLD.
WRITE 'HELLO, ABAP!'.

 

そのため、PythonやRubyといったモダンな言語に慣れた人からは、「古臭い」と感じられることもあります。しかし、その安定性と堅牢性は、企業の基幹システムを支える上で、大きな信頼に繋がっています。

ABAPを学ぶ価値とは?高い専門性と将来性

ABAPを学ぶ価値とは?高い専門性と将来性

 

「SAP専用なんて、ニッチすぎて将来性がないのでは?」と思うかもしれません。しかし、現実はその逆です。ABAPスキルは、非常に高い市場価値と将来性を秘めています。

 

  • 圧倒的な需要の安定性:SAPは世界中の大企業で使われており、一度導入されると簡単にはリプレイスされません。既存システムの保守・改修の仕事は、未来永劫なくならないと言っても過言ではありません。

  • 高い希少価値と高年収:ABAPを扱えるエンジニアは、一般的なWebエンジニアに比べて数が限られています。特に、ABAPの技術力と、会計や販売といった「業務知識」を兼ね備えた人材は非常に希少で、高収入を得やすい傾向にあります。

  • SAP S/4HANAへの移行特需:現在、多くの企業が旧世代のSAPから、最新の「SAP S/4HANA」への移行を進めています。この移行に伴い、既存のABAPプログラムの修正や、新しい技術(ABAP on Cloudなど)を使った再開発が大量に発生しており、ABAPerの需要は世界的に急増しています。

 

ABAPは、流行り廃りの激しいIT業界において、**「一度身につければ、長く安定して稼ぎ続けられる」**という、非常に強力なスキルなのです。

 

ABAPの学習方法

ABAPの学習方法

 

ABAPは特殊な言語であるため、その学習方法も限られています。

 

  1. 企業に入社して学ぶのが王道
    最も現実的で確実な方法です。大手SIerやITコンサルティングファームなど、SAP案件を扱う企業に入社し、社内研修やOJTを通じて学ぶのが一般的です。ABAPerは需要が高いため、未経験者向けの研修制度を設けている企業も少なくありません。

  2. SAPの公式トレーニングを受講する
    SAP社自身が、有償のトレーニングコースを提供しています。内容は非常に高品質ですが、受講料が数十万円と高額なため、個人で受講するのはハードルが高いです。

  3. 書籍で学ぶ
    ABAPに関する市販の書籍は、他の言語に比べて非常に少ないですが、いくつか存在します。まずは入門書を読んで、言語の雰囲気をつかむのが良いでしょう。

  4. SAPの学習用環境を利用する
    SAPは、開発者向けに無料の学習用環境(SAP ABAP Platform, developer editionなど)を提供しています。これを自分のPCにインストールすれば、実際にABAPに触れることができます。ただし、環境構築の難易度は非常に高いです。

 

まとめ

まとめ

 

ABAPは、華やかさや汎用性こそないものの、「SAP」という巨大な経済圏の中で絶対的な力を持つ、プロフェッショナル専用の言語です。

それは、流行を追いかけるのではなく、一つの道を深く、長く探求したいと考える「職人気質」の人にこそ、ふさわしい言語と言えるでしょう。

 

もしあなたが、安定した環境で、他に替えの効かない専門性を身につけ、大企業のビジネスを根幹から支えるという大きなやりがいを感じたいなら、ABAPという「魔法の呪文」を学んでみるのは、非常に賢明な選択となるはずです。

 

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