
「Webページにアニメーションをつけたいけど、難しそう…」
「昔のWebサイトのコードを見ると、必ず$っていうマークが出てくるけど、これ何?」
JavaScriptを学び始めたばかりの人が、一度は感じるであろう、これらの悩みや疑問。その多くを、かつて魔法のように解決してくれた、伝説的なツール。それが**「jQuery(ジェイクエリー)」**です。
一言でいうと、jQueryとは**「面倒で長いJavaScriptのコードを、驚くほど短く、直感的に書けるようにしてくれる、超便利な『JavaScriptのライブラリ(道具箱)』」**のことです。
この記事では、プログラミング初心者の方でもjQueryの正体と、その偉大さがわかるように、わかりやすく徹底的に解説していきます。
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jQueryが生まれた背景と、その革命性
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jQueryの基本的な使い方と、魔法のような書き方
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なぜ、かつて「必須スキル」とまで言われたのか?
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そして、「今からjQueryを学ぶ価値はあるのか?」という疑問
物語の始まり:jQueryがなかった頃の「辛いJavaScript」
jQueryのすごさを理解するには、まず、それがなかった2000年代中頃のJavaScript開発が、どれほど過酷だったかを知る必要があります。
当時、JavaScriptは**「ブラウザ戦争」**の真っ只中にありました。Internet Explorer, Firefox, Safariなど、それぞれのWebブラウザが、独自のJavaScriptの解釈や仕様を持っており、同じコードを書いても、
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「Internet Explorerでは動くのに、Firefoxでは動かない…」
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「ある機能を実現するための書き方が、ブラウザごとに全然違う…」
といった**「ブラウザ間の互換性の問題」**に、開発者は日夜、頭を悩ませていました。
さらに、Webページ上の要素を取得したり、アニメーションを実装したりするためのコード(DOM操作)は、非常に長く、複雑な記述が必要でした。
【素のJavaScript(Vanilla JS)での例】
「importantというクラス名を持つ、すべての<p>タグの文字色を赤にしたい」という、単純な処理を考えてみましょう。
// まず、すべてのpタグを取得
const pElements = document.getElementsByTagName('p');
// pタグを一つずつループでチェック
for (let i = 0; i < pElements.length; i++) {
// もし、そのpタグが'important'というクラスを持っていたら…
if (pElements[i].className === 'important') {
// そのpタグのスタイル(文字色)を赤に変更する
pElements[i].style.color = 'red';
}
}
たったこれだけのことをするのに、こんなに長いコードを書かなければならなかったのです。
革命の到来:jQueryという名の「魔法の杖」
この「ブラウザ間の差異」と「冗長な記述」という、2大巨悪から開発者を解放するために、2006年にジョン・レシグ氏によって開発されたのがjQueryです。
jQueryのスローガンは、「Write Less, Do More.(より少なく書いて、より多くを成せ)」。
その言葉の通り、jQueryは、先ほどの長くて面倒だったコードを、たった一行で書けるようにしてくれました。
【jQueryを使った場合の例】
$('p.important').css('color', 'red');
信じられないかもしれませんが、これで先ほどの素のJavaScriptと全く同じことができます。しかも、jQueryが内部でブラウザ間の差異を吸収してくれるため、このコードはどのブラウザでも、ほぼ同じように動作します。
開発者たちは、まるで複雑な呪文を唱えていた魔術師が、振るだけで魔法が使える「魔法の杖」を手に入れたかのような衝撃を受けました。jQueryは、あっという間に世界中のWebサイトで使われるようになり、事実上の**「業界標準」**として、フロントエンド開発に君臨したのです。
jQueryの基本的な使い方:「$」から始まる魔法の呪文
jQueryを使うには、まずHTMLファイルでjQuery本体のファイルを読み込む必要があります。
<script src="https://ajax.googleapis.com/ajax/libs/jquery/3.5.1/jquery.min.js"></script>
この一行を、自分のJavaScriptコードを読み込む前に<head>タグ内や<body>タグの末尾に書くだけで、jQueryの魔法が使えるようになります。
jQueryの基本的な書き方は、非常にシンプルです。
$(セレクタ).メソッド(引数);
1. $(ドルマーク)
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$は、**「jQuery」**そのものを表す、特別な記号です。jQueryのすべての命令は、この$から始まります。これは「これからjQueryの魔法を使いますよ」という合図です。
2. セレクタ
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**「どのHTML要素に対して」**操作を行うか、その対象を指定します。
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このセレクタの指定方法が、CSSとほぼ同じなので、CSSを学んだ人なら、誰でも直感的に使えます。
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$(‘#myId’):IDがmyIdの要素
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$(‘.myClass’):クラス名がmyClassの要素
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$(‘p’):すべての<p>タグ
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$(‘li:first-child’):リストの最初の要素
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3. メソッド
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**「何をするか」**という、具体的な操作(命令)です。jQueryには、ありとあらゆる便利なメソッドが、あらかじめ用意されています。
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.css():CSSのスタイルを変更する
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.hide() / .show():要素を隠したり、表示したりする
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.text() / .html():要素の中のテキストやHTMLを書き換える
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.addClass() / .removeClass():クラスを追加したり、削除したりする
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jQueryが得意なこと:なぜ、ここまで人気になったのか?
jQueryが絶大な支持を得た理由は、特に以下の3つの処理が、圧倒的に簡単に行えたからです。
1. DOM操作
前述の通り、$(セレクタ)で簡単に要素を選択し、.css()や.html()といったメソッドを繋げる(メソッドチェーン)だけで、複雑なDOM操作が直感的に行えました。
2. イベント処理
「ボタンがクリックされたら」「マウスが乗ったら」といった、ユーザーのアクション(イベント)に応じた処理も、非常に簡単に書けます。
// id="myButton"のボタンがクリックされたら、アラートを出す
$('#myButton').on('click', function() {
alert('ボタンが押されました!');
});
3. アニメーション
jQueryは、Webページにアニメーションを簡単に追加できる機能で、多くのWebデザイナーを魅了しました。
// class="box"の要素を、1秒かけてフワッと表示させる
$('.box').fadeIn(1000); // 1000ミリ秒 = 1秒
.slideDown()(スライドしながら表示)、.animate()(CSSプロパティを滑らかに変化させる)など、リッチな動きを数行で実装できました。
4. Ajax通信
jQueryは、Ajax(ページをリロードせずに、サーバーと非同期通信する技術)の実装も、非常にシンプルにしてくれました。
$.ajax()というメソッドを使えば、数行のコードで、サーバーとのデータ送受信を簡単に行うことができ、これが動的なWebアプリケーションの普及を大きく後押ししました。
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物語の現在:「jQueryはもう古い」は本当か?
これほどまでにWeb開発に貢献してきたjQueryですが、2020年代に入り、「jQueryはもう古い」「オワコンだ」といった声を耳にすることが増えました。これは、なぜでしょうか?
その背景には、2つの大きな変化があります。
1. JavaScript(素のJS)自身の進化
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かつてjQueryが解決していた「ブラウザ間の差異」は、ブラウザの標準化が進み、ほとんどなくなりました。
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document.querySelector()やfetch APIなど、jQueryを使わなくても、素のJavaScriptだけで、短く、直感的にコードが書けるように、言語自体が大きく進化しました。
2. React, Vue.jsといったモダンなフレームワークの台頭
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より複雑で大規模なWebアプリケーション(SPA)開発においては、jQueryの「直接DOMを操作する」という思想自体が、コードを複雑化させる原因となりました。
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ReactやVue.jsは、「仮想DOM」という新しい仕組みを使い、DOM操作をフレームワークに任せることで、より効率的で、メンテナンス性の高い開発を可能にしました。
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では、今からjQueryを学ぶ価値はあるのか?
結論から言うと、**「Web制作の初学者にとって、学ぶ価値は今でもある。ただし、深追いは禁物」**と言えるでしょう。
【学ぶメリット】
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既存のサイトの保守・改修で必須:世の中には、まだjQueryで作られたWebサイトが、星の数ほど存在します。Web制作会社などで、これらのサイトの修正や更新を行う仕事では、jQueryの知識は必須です。
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JavaScriptの概念理解の助けになる:$マークが何を意味し、DOM操作がどのように行われるかを学ぶことは、JavaScriptの基本的な概念を理解する上で、非常に良いトレーニングになります。
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WordPressテーマのカスタマイズ:多くのWordPressテーマでは、今も内部でjQueryが使われており、カスタマイズの際に知識が必要になることがあります。
【学習の注意点】
jQueryは、あくまで**「JavaScriptを便利にするための道具」**です。jQueryの使い方だけを覚えて、その裏側にあるJavaScriptの仕組み(DOM、イベント、非同期処理など)を理解しないままだと、応用が利かず、Reactなどのモダンな技術へステップアップする際に、必ず壁にぶつかります。
学習の順番としては、
- まず、素のJavaScriptの基礎をしっかり固める。
- 次に、jQueryに触れて、「JavaScriptでできることを、いかに楽に書けるか」を体験する。
- そして、最終的にはReactやVue.jsといった、現代的なフレームワークの学習に進む。
という流れが理想的です。
まとめ
jQueryは、かつてJavaScript開発の荒野を切り拓き、Webの世界をより豊かで、インタラクティブなものへと変えた、偉大な革命家です。
**「Write Less, Do More.」**の精神は、その後のフロントエンド開発の思想に、計り知れない影響を与えました。
その主役の座こそ、ReactやVue.jsといった新しい世代に譲りましたが、Webの歴史を築き、今なお多くのサイトを支え続けているという事実は、決して色褪せることはありません。
jQueryを学ぶことは、Web開発の温故知新です。その歴史と役割を正しく理解し、適切な場面でその力を借りる。それができれば、jQueryは今もなお、あなたのWeb制作の旅路を助けてくれる、頼もしい相棒となるでしょう。
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