
「スクラッチ開発って、よく聞くけど、一体どういう意味?」
「パッケージ開発っていうのと、何が違うの?」
ソフトウェアやシステムを開発する、と一言で言っても、その「作り方」には、いくつかの異なるアプローチが存在します。その中でも、最も伝統的で、そして最もオリジナリティあふれる開発手法。それが**「スクラッチ開発」**です。
一言でいうと、スクラッチ開発とは**「既存のソフトウェアやテンプレート(ひな形)を一切使わずに、完全にゼロの状態から、独自のシステムを設計・プログラミングしていく、オーダーメイドの開発手法」**のことです。
この記事では、IT知識ゼロの初心者の方でも、スクラッチ開発の本質がスッキリと理解できるように、**「洋服作り」**に例えながら、わかりやすく徹底的に解説していきます。
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スクラッチ開発の具体的なイメージ
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対極にある「パッケージ開発」との決定的な違い
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スクラッチ開発を選ぶメリットと、その大きな代償(デメリット)
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どんな時に、スクラッチ開発は選ばれるのか
スクラッチ開発の正体:「フルオーダーのオートクチュール」
「スクラッチ(Scratch)」という英単語には、「ひっかく」という意味の他に、スポーツなどで使われる**「スタートライン」**という意味があります。「Start from scratch」で「ゼロから始める」という慣用句になり、これがスクラッチ開発の語源です。
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やり方:
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まず、顧客の体型を隅々まで採寸し、どんな場面で、どんな印象を与えたいか、好みやこだわりを徹底的にヒアリングします。
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次に、デザイナーが、その顧客のためだけの、世界で一つだけのデザイン画を描きます。
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そして、世界中から取り寄せた最高の生地(プログラミング言語や技術)を選び、熟練の職人(エンジニア)が、一針一針、手作業で縫い上げていきます。
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完成品:
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顧客の体型や要望に、完璧にフィットした、世界に一着だけの服。
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デザインも、機能性も、すべてが理想通り。
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対極の存在:「パッケージ開発」という名の「既製服」
スクラッチ開発の概念をより深く理解するために、その対極にある**「パッケージ開発」**と比較してみましょう。
パッケージ開発とは、**「すでに完成している既製のソフトウェア(パッケージ)を購入し、それを自社の業務に合わせて設定(カスタマイズ)することで、システムを構築する手法」**のことです。
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やり方:
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お店に行き、S・M・Lといったサイズや、様々なデザインの中から、自分の体型や好みに、**”最も近い”**一着を選びます。
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購入して、すぐに着ることができます。
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もし、袖の長さが少し合わなければ、お直し屋さんで、少しだけ詰めてもらう(=カスタマイズ)こともできます。
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完成品:
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多くの人に合うように、標準的な設計で作られている。
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完全に自分の体型にフィットするわけではないが、十分満足できる品質。
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何よりも、安価で、すぐに手に入る。
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【代表的なパッケージソフトウェア】
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ERP:SAP, Oracle NetSuite(企業の基幹業務を統合管理)
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CRM/SFA:Salesforce(顧客管理・営業支援)
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会計ソフト:freee, マネーフォワード クラウド
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徹底比較!スクラッチ開発 vs パッケージ開発
比較項目 | スクラッチ開発(オートクチュール) | パッケージ開発(既製服) |
開発手法 | ゼロからすべてをプログラミング | 既製品をベースに、設定変更やカスタマイズ |
適合性 | 100%完璧にフィット | 80%程度フィット(一部妥協が必要) |
開発期間 | 長い(数ヶ月~数年) | 短い(数週間~数ヶ月) |
開発コスト | 高い(数千万円~数十億円) | 安い(数百万円~) |
独自性・競争力 | 非常に高い(他社にはない、独自の機能を実現できる) | 低い(他社と同じ機能) |
なぜ、あえて「ゼロから作る」のか?スクラッチ開発のメリット
「安くて速いパッケージがあるのに、なぜわざわざ、時間もお金もかかるスクラッチ開発を選ぶの?」
その理由は、スクラッチ開発でしか得られない、決定的なメリットがあるからです。
1. 業務への完璧な適合性
最大のメリットです。自社の、たとえ特殊で複雑な業務フローがあったとしても、それに寸分の狂いもなく、完璧にフィットしたシステムを構築できます。パッケージのように、「システムの仕様に合わせて、業務のやり方を変える」といった妥協が一切不要になります。
2. 圧倒的な競争優位性の確保
「他社には絶対に真似できない、独自のサービス」や、「業界の常識を覆す、革新的なビジネスモデル」を実現したい場合、そのためのシステムは、世の中のどこにも存在しません。
スクラッチ開発は、このような自社のビジネスの「核」となる、競争力の源泉となるシステムを、ゼロから生み出すことができる、唯一の方法です。
3. 柔軟な拡張性と、長期的な運用
自社でソースコードを完全にコントロールできるため、将来のビジネス環境の変化や、事業の拡大に合わせて、システムを柔軟に拡張・改修していくことができます。
パッケージのように、提供元ベンダーの方針(バージョンアップの停止など)に、自社のシステム戦略が左右される「ベンダーロックイン」のリスクもありません。
4. 既存システムとのスムーズな連携
企業内には、古くから使われている様々なシステムが存在します。スクラッチ開発なら、これらの既存システムと、細かく仕様を調整しながら、スムーズにデータ連携する機能を、自由に作り込むことができます。
覚悟が必要な「代償」:スクラッチ開発のデメリット
究極のフィット感と自由度を手に入れる代わりに、スクラッチ開発には、大きな「代償」が伴います。
1. 莫大な開発コストと、長い開発期間
ゼロからすべてを作り上げるため、当然ながら、開発に関わるエンジニアの人件費や、開発期間は、パッケージ開発とは比較にならないほど、膨大になります。プロジェクトの規模によっては、数年がかりで、数十億円の予算が投じられることも珍しくありません。
2. 高いプロジェクト失敗のリスク
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要件定義の難しさ:ゼロから作るということは、「何を作るか」を、すべて自分たちで定義しなければならない、ということです。この最初の要件定義が曖昧だったり、途中でブレたりすると、プロジェクトは簡単に迷走し、失敗に終わります。
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開発会社の選定リスク:オーダーメイドである以上、その品質は、開発を担当するエンジニアのスキルや、プロジェクトマネージャーの管理能力に、100%依存します。信頼できる開発パートナーを見つけられるかどうかが、成否を分けます。
3. 完成後の保守・運用体制が必須
システムが完成した後も、そのシステムを維持・管理し、バグを修正し、将来の改修に対応するための、専任の保守・運用チームが、自社(または委託先)に必要となります。
パッケージのように、ベンダーが自動でアップデートしてくれる、といったことはありません。
どんな時に、スクラッチ開発は選ばれるのか?
これらのメリット・デメリットを踏まえると、スクラッチ開発が選択されるのは、主に以下のようなケースです。
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企業の競争力の源泉となる、コアな業務システム
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例:金融機関の勘定系システム、航空会社の予約・運行管理システム、メーカー独自の生産管理システム
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世の中に前例のない、革新的なWebサービス
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例:創業当初のAmazonやメルカリ
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既存のパッケージでは、到底対応できない、極めて特殊で複雑な業務要件がある場合
まとめ
スクラッチ開発とは、まるでオートクチュールの服を仕立てるように、顧客の要望に完璧に応える、世界で一つだけのシステムを、ゼロから創り上げる、究極のオーダーメイド開発です。
それは、
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メリット:完璧な適合性と、高い競争優位性
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デメリット:莫大なコストと、高いリスク
という、光と影を併せ持っています。
プログラミング初心者として、あなたが学習サイトなどで、一からWebアプリケーションを作る練習をする時、それはまさしく「スクラッチ開発」の小さな体験です。
この「ゼロから創り出す」という開発手法の存在と、その対極にある「パッケージを組み合わせる」という手法。この2つのアプローチの違いを理解しておくことは、あなたが将来、システム開発の世界で、「この課題を解決するには、どんな作り方が最適か?」を考える上で、非常に重要な視点を与えてくれるはずです。
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